農業、食、コミュニティと時々落語。

これまでと今とこれから。

インタビューその6

【農場その3】

大学から程近い(といってもバイクで20分、自転車で1時間)ところにTUE VIENオーガニック農場がある。TUE VIENというのは。今日訪れた農場は6年前の2008年に2.2haというベトナム北部では最大の広さを誇るオーガニック野菜農場をスタートさせた。年間の作物品種は100を超えるという。労働者を10人雇っていて、自分自身は他業務に基本的には専念する。この他にモリンガだけのオーガニック農場が2つ別の場所にあるという。



【オーナー】

NGUYEN PHUONG LIENさんという方がオーナーをしており、実質的な農家ではない。1つの会社として農場を運営している。元々、ベトナムの不動産市場で働いており、2005年に独立しVietlien Limited, Comercial, Investment Companyという会社を立ち上げた。それ故に彼女はお金を持っており、広い農地を買うことが出来たのである。



【認証制度の違い】

国として持っていないオーガニック農業に関する政策をハノイ市は独自にもっている。今までの農家がオーガニック認証をPGSで受けていることは何度も書いたと思う。しかし、PGSは会社として運営している農場は申請することが出来ない。そのため、この農場はPGSでは無いため、農家グループを持っていない。その代わり、ハノイ市が独自で持っているオーガニック認証制度があり、それに準じている。ベトナムにはPGSの他にもオーガニックを認証する機関は多数存在するらしいが、その様なものは今まで見たことがない。そして、PGSに準じない場合はその他の認証機関に申請するか、ハノイ市のオーガニック農場の場合はハノイ市に申請することになる。



【ハイビスカス】

農場の入り口を入るとすぐに長々とハイビスカスの通路がある。見た目が良いのはもちろんのこと、このハイビスカスがもたらす効果は様々である。まず、花からハイビスカス茶が出来る。その他には、「きのこ、かび」といった「菌類」を守る効果があるという。(真相は不明)また、アフリカマイマイ(害虫/食用)をおびき寄せるためのハイビスカスであるという。




コンパニオンプランツ

過去にも再三言っているが、ベトナムの農場ではコンパニオンプランツを非常に有効活用している。そして、知識レベルも高い気がする。またベトナムという気候も手伝ってか、これらのコンパニオンプランツ類が育てやすいのかもしれない。その他にも、畝の両サイドにはシソやミントなどのハーブ類が植えてあったり、マリーゴルド類の花もところ狭しと植えてあった。これらは他の害虫を寄せ付けない効果と、益虫(蜂など)を呼び寄せる効果がある。



【モリンガ】

モリンガというのがこの農場の主力作物となっている。モリンガは以前訪れた農場で、メディカルプランツとして紹介され、値段は普通の野菜の5倍するという話を聞いたばかりであった。そんなモリンガがここでは大量に植えられている。モリンガの特徴は簡単にいうと「育てるメリットがとてつもなく高い」ということである。植えればCO2吸収量は杉の50倍、牛に与えれば乳量は増え、人間が食べれば栄養素が他の植物よりも高い。国連も推奨している作物である。
http://matome.naver.jp/odai/2134398809336824701



【輪作/混作/間作(アグロフォレストリー)】

モリンガの下に野菜が植わっていて「これは間作だ」と言っていた。しかし、見た目はアグロフォレストリーに近い感じがする。また、ツルムラサキと一緒にホワイトピーナッツが植えられており、これはマメ科の植物特有の根粒菌による土壌改良を狙い、ツルムラサキの成長を促すというものであった。また、これと同じところにさつまいもも植えられている。とにかく土壌中の栄養素が偏らないように輪作、混作、間作を大事にしていることがわかった。モノカルチャーの様に栽培する作物を固定してしまうと連作障害や土壌バランスを崩し、結果的に肥料過多などを引き起こし、害虫や病気の元になる。

【隣の農場との関係性】
PGSでは隣の慣行農場とオーガニック農場の間が1~2m必要尚且つ、柵が必要であった。この農場では、5mの間と隣の農場がグアバ農場で比較的高さがあるため、間の5mのところにグアバと同じ高さの木を植えて農場などを防除する工夫をしている。また、雨により隣からの化学物質が流出していくる可能性があるため、農場の周りに小川を作りそこに隣からの流出したものが全て流れ様にしている。



【ミミズ】

この農場で外部から仕入れているのは、牛の糞だけである。6-7km離れた村には農家みんなが牛を放牧しているらしい。その牛は自然の草しか食べていないという。牛の糞は1回に40トンを年間2-3回ほど買っている。1回の値段は12-15,000,000/VDNがそれをミミズの培養に使っている。基本的に土に入れるのは、ミミズとコンポストであり、時々栄養が足りていないと感じたら魚を発酵させて作った肥料を入れる。微生物と酵素の重要さを分かっていた。



【ハイテクノロジー】

農場においてハイテクノロジーとはどのようなことを指すか。機械の導入、マルチの利用、灌漑設備の完備、新たな品種。これたは確かにハイテクノロジーである。間違いない。しかし、同じに面積で収穫量を増やすために改善していく。これも1つの「ハイテクノロジー」ではないかと彼女から教わったのである。いまある土地を最大限利用するためにはどうすればよいのか、これは1人あたりの農地面積が少ない地域で考えられる特徴である。そのためにミミズや間作などの栽培技術を多く取り入れている。



ベトナムのオーガニック農業についての問題点1】

政府はオーガニック農業に対して支援したいという思いはあるが、過去の事例より失敗することを恐れている。過去の失敗とはセーフティフードの問題である。ベトナムにはセーフティフードという日本で言うところの特別栽培のように農薬や殺虫剤の使用回数を減らして育てられた作物が存在する。しかし、そのセーフティフードを信じる人はほとんどいないという。理由は農家の理解が正しくなかったことと、政府が全てを取り締まるのは非常に難しかったこと。例えば、農薬使用回数を2回となっていても、3回4回と使っても分からない。この事実が新聞、テレビ、口コミで広がったことによって、いまではセーフティフードは誰も信じなくなったのだという。なので、政府としてはオーガニック農業を支援したいが、失敗することに恐れていて、尚且つどのような支援をすれば良いのかわからないという。




ベトナムのオーガニック農業についての問題点2】

彼女は政府の支援は一切受けていない。というよりも受けられない。それは、彼女が農家では無く、ビジネスマンだからだという。ベトナムの農家は個々で持っている農地は微々たるものであり、グループを作ったとしても6000㎡が今までの最大農地面積である。よって、政府の支援は比較的安価に済む。しかし、彼女や他のビジネスマンが持つ農地は2.2haに代表される様に大きい。つまり、政府が支援しようとしてもその支援額が巨大なものになってしまうからである。また、ビジネスマンはお金を持っていると政府は考え、支援する必要性を見出さないという。



【問題点に対する言及】

まず、成功するか失敗するかやってみないとわからないというのは、全てのプロジェクトについて言えることである。このことが理由で踏みとどまって、どのように支援すれば良いのかわからずオーガニック農業に対する支援や国としてのオーガニック農業に対しての政策に遅れが出ているならば、本当の理由は別にあると考える。ベトナムにとってオーガニック農業は非常に新しい。過去を振り返れば誰もがオーガニック農業であったことを知らないというくらい今では化学肥料や殺虫剤が広がりを見せており、それらの「味」を農家は既に知っている。ここからオーガニック農業に方向転換するとなると、まず政府が考えなければならないのは「化学肥料や農薬の供給元をいかにストップさせるか」「いままでの農産物はあんまり安全じゃなかったということを国民にどう言うのか」「なぜいまオーガニックなのかという」という説明をしなければならない。化学肥料や農薬の供給元のストップは国としてのビジネスが関わっていると思うので、ストップすることはまず難しい。また、仕入れる量を少なくさせるのも難しいかと考えられる。また、ビジネスマンでお金を持っているからと言って、支援が一切無いのは国として本当にオーガニック農業を支援したいのかどうかも疑わしい。表面上で言うだけであって、実情はどうなのかが非常に怪しい。未だ国としてオーガニックの政策、指標となるものを持っていないということがこれらの憶測の元である。